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『日本近代の歴史』刊行記念対談(1/3頁) 『本郷』第126号収録

PR誌本郷第126号収録
『日本近代の歴史』刊行記念対談

世界史の中の近代日本
―内政と外交のはざま―

 
源川真希 みながわ まさき
1961年、愛知県生まれ。東京都立大学大学院人文科学研究科博士課程単位取得
現在、首都大学東京都市教養学部教授
主要著書=『近衛新体制の思想と政治』、
『東京市政』など多数
大日方純夫 おびなた すみお
1950年、長野県生まれ。早稲田大学大学院文学研究科博士課程修了
現在、早稲田大学文学学術院教授
主要著書=『近代日本の警察と地域社会』、『維新政府の密偵たち』など多数

 

本シリーズの特色

――本日は、9月より刊行が開始されます新シリーズ『日本近代の歴史』の企画編集委員である大日方純夫・源川真希両先生にお越しいただきました。本シリーズの特色や見どころについてお話しいただきたいと思います。

 源川 本書の特徴はと言うと、近代日本の85年ほど、明治維新から1950年代ぐらいまでの時代を6つに分け、国際環境を留意しながら政治史を中心に描いたということです。
 大日方 そうですね。やはり時代区分ですね。

 源川 国際環境と、それに対応する内政のあり方について総合的に把握するという考えのもとで執筆の打ち合わせをしました。6つの時代の分け方は、第1巻が「王政復古」から明治6年政変、第2巻は岩倉使節団を起点として日清戦争まで、第3巻で日清戦後経営から明治の終焉、アジアの情勢としては辛亥革命、第4巻は大正政変から、そして大正末期の第2次加藤高明内閣ぐらいですね。第5巻では憲政常道の定着ということで、第2次加藤内閣が若槻内閣に移行する時期から、日中戦争前の林銑十郎内閣までの時期を扱ったということです。
 そして第6巻では日中戦争の前夜から戦後、サンフランシスコ講和から1955年体制の形成までを扱いました。1955年体制の形成にふれたのは、戦前の政党政治が崩壊して、戦後、総力戦体制になりますが、政党が復活していくさまも描きたかったからです。
 このように6つの時期に分けてそれぞれ執筆をお願いしたわけです。通史を書くというのは非常に難しい。1巻分で400字×350枚程度の規模で概括的な叙述をして、いろいろな研究に目配りをしながら研究状況を説明しなければいけない。やってみて分かったのは、研究状況の把握とか大きな歴史像の理解が難しくなっていて、近現代史研究者でも政治、外交、経済、社会など、個別の研究状況を概括していくのはすごく大変だということです。

 大日方 政治史の基本的な流れを押さえながら記述するというのが一つのねらいです。その場合、通史というのは何なのかが、難しい問題です。単純な誤解があって、年表と同じじゃないかというふうに勘違いする人もいます。しかし、時間軸で並べていけば歴史の流れが見えてくるというのではなく、時代の構造を捉えながら展開させていかなければならない。ですから今回で言うと、巻別けをどこでどう切っていくのか、巻の中でどう編成するのかというあたりが一番手腕が問われるところだと思います。
 やはりそれぞれの巻とも時代の捉え方という点では、非常に特徴的で、ある種、個性的です。各巻、時代像が非常に鮮明になるような、仕上がりになっているという気がします。
 しかし、他方で、今回のシリーズは、個人の研究そのままのオリジナルな作品というわけではなく、基本的事実を踏まえながら、かつ先行研究をいろいろ組み込んで時代像を描こうとしているところが重要です。ですから、全体としても非常に安定的に展開できているので、安心して読んでいただけると思います。

――特徴でいきますと、1、2、3巻の区分というのは比較的スタンダードだと思います。ただ後半の4巻と5巻の分け目を工夫して、1925年と36年で分けたねらいについて聞かせてください。

 源川 これは執筆者の方の顔もチラチラと思い浮かべながらというのもありましたけれども、やっぱり護憲三派内閣ができて、憲政常道が定着していく過程というのは一つの区切りにはなるだろうと思いました。
 描き方としては、第4巻の櫻井さんに大正時代というくくりでまとめていただき、その終点としての護憲三派内閣から普通選挙、治安維持法という位置づけになると思います。
 河島さんには憲政常道の時代から、37年の日中戦争直前ぐらいまでを、1つのまとまりとして描いていただけたと思います。
政党政治の展開と崩壊から日中戦争開始前の時代的な総括が、第5巻ではできたのではないかと思います。

 大日方 それは基本的には政党政治という話と、国際的には協調主義がメインになっている時期としてイメージされてくるということですね。

 源川 そうですね。

 大日方 それが破たんしていく過程としてですね。

 源川 そうです。

 大日方 ですから15年戦争と一括しないで、振り分けてみたということですね。

 源川 微妙なのは、これまでの15年戦争論や、あとで述べますがデモクラシーからファシズムへという枠組を意識しています。河島さんの巻のタイトルは『戦争とファシズムの時代へ』です。とはいえ、この時代の複雑な様相を描いてもらえたのではないかと思います。

世界史との関わり

 源川 次に世界史との関係についてふれます。世界史の展開と、アジア情勢の中での日本の位置を踏まえながら内政を書いていくということです。これは各巻それぞれで意識されていると思います。奥田さんの第1巻『維新と開化』については、『日本近世の歴史 第6巻 明治維新』(小社刊)と重なる時代を扱っています。

 大日方 そうですね。政局史という意味では、重なっています。

 源川 私のように近代の後ろの方を勉強している者は近代国家建設について、立憲制の形成、明治憲法の制定ぐらいまでざっと見てしまうんです。しかし第一巻からは明治6年ぐらいまでの時期に、いかに近代国家をつくるさまざまな変革といったものが進んでいるのかということがわかります。ものすごく苦しみながら国制が変わっていく。

 大日方 そうですね。痛みを伴います。

 源川 第1巻は幕藩体制から新しいものに変えようとしていく様子が生き生きと描かれていたと思います。
 そして大日方さんの第2巻で、あらためて近世における国際関係の「四つの口」の概括と、それが近代にどうなっていくのかという展開になっています。この辺はいかがですか。

 大日方 世界史のなかでという場合、それこそが日本近代史の特徴だというふうに思うんです。「鎖国」と言えるかどうかは別としても、少なくとも前近代は東アジアの中で世界が形成されている。しかし、基本的に「開国」後の近代は世界史抜きには語れない時代に入ってくるので、それを入れない近代史はあり得ないと思います。その点では世界史とのかかわりが必然的なものだということです。
それから、とくに高校生、大学生の読者をイメージした場合、日本史、東洋史、西洋史という区分ではまずいと思います。アジア史と西洋史、あるいは日本史と西洋史を統合していかなければならない。そこをうまく書き分けることが非常に重要な課題です。
 その内容、評価は別として、文部科学省
は2020年度以後に実施される学習指導要領で、高校に「歴史総合」という新しい必修科目を置こうとしています。歴史というものをそもそも単純に世界史と日本史には区分はできない、というところがやはり大きなポイントになってくると思います。

―― 「歴史総合」というのは日本史と世界史の総合ですか。

 大日方 そうです。日本史と世界史とに区分しないで、まず高校に入ったらそれを基礎としてやる。中央教育審議会の案では、その上に日本史に関する探究科目と世界史に関する探究科目という2つの選択科目を置くことになっています。その点では、近現代重視、かつ世界史、特に東アジアを視野に入れないと語れないという、そういう流れができてくると思います。日本学術会議も2014年にそういう方向で、「歴史基礎」という形で提案したものですから、日本史と世界史の統合ということが大きな流れになっているのだと思います。
 世界史という場合、さっきも触れたのですが、基本的に日本の独自な位置として、西洋列強とどう関係するのかということと、アジアの近隣とどう関係するのかということの2つが大きなポイントになるわけです。「脱亜入欧」ということが言われたり、アジアに対する侵略という問題が言われたりしますが、それを各時期ごとに、押さえながら議論を展開していくことが非常に重要だと思います。
 その点で、第2巻から後の時期は、そういう両にらみの展開が重要な課題になると思います。

―― 最近、日露戦争までの日本の外交戦術を評価すべきだという外国の研究者がいます。近代史の中では、すでに日清戦争の時点から植民地戦争の側面があるわけです。評価するのが難しいと思いますが、学界としてはどうですか。

 大日方 かなり論争的テーマになるのは、日清戦争までのプロセスをどう見るのかということです。これについては、日本の近代史研究者の中でも対立的な見解があります。つまり必然的に日清戦争に至り、日本は中国を侵略し、日露戦争から15年戦争に至るという、こういう流れで、ある種一直線に見る見方と、他方で、いや、それは政治過程の展開の中から出てきて、それが日清戦争で決定付けられたのだという議論があります。私は今回、後者の立場に立って基本的には書いていますが、「結果、うまくいった」という言い方は、大国化したという立場に立つからそう言えるのです。しかし裏を返せば、今回は特に第3巻あたりで「帝国」という問題が入ってくるので、そこのところが大きな分かれ目だと思います。つまり主権回復という話だけではなくて、それがアジアに対する進出・侵略の展開と裏腹の関係になる。ここのところを問わなければならないと思います。
 こうしたことの結果として、戦争と侵略、植民地化ということが、本格的に展開していくのです。それを見ないと、朝鮮支配とか、あるいはその後の中国侵略というのは見えてこないと思います。
 近年は国際秩序とか外交史というのはかなり蓄積がされてきていますが、そういう外交史や国際関係史の蓄積を、政治史とどうリンクさせていくのかというのが大きなテーマになります。

次頁へ続く

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