安政4年(1857)創業、歴史学中心の人文書出版社
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年6冊刊行

 ~『本郷』ってどんな雑誌?~
<連載コーナーの紹介>

 

  ◆ ミュージアム・コレクション
全国の美術館・博物館が所蔵する古今東西の名品を、学芸員の解説とともに紹介する本誌自慢の「誌上ギャラリー(展覧会)」。臨場感あふれる表紙のカラー部分図も、圧倒的な迫力でビジュアル効果を高めています。

◆百話百言
日本史学界の碩学による巻頭エッセイ。人の世の酸いも甘いも噛み分けた先達ならではの滋味あふれる筆致は、時に人情の機微を描き、また返す刀で舌鋒鋭く社会の闇を裁ちます。

 ◆〈文化財〉取材日記
新聞やニュースを賑わす文化財!新しい発掘が歴史を塗り替えることも。そんな報道の最前線に立つ記者の視点から、文化財をめぐる問題点や現状などを聞かせていただきます。迫真のレポートをお楽しみに。

◆歴史のヒーロー・ヒロイン
各界で活躍する有名人 が、歴史上の人物にたくし、自分の思いや夢を語り尽くします。こんな人がこんな人物を…?!選ぶ人の人となりがしのばれる人選、予想もしなかった人選など、興味津津です。

 ◆江戸東京今昔めぐり
東京に残る江戸時代の痕跡を訪ね、その魅力を絵で伝える新コーナー。コーディネーター役は、やわらかなタッチで精密に事物を描く、独自のルポイラストで人気沸騰中のモリナガ・ヨウさん。毎号はどんな発見と江戸の姿が浮かび上がるのか、乞うご期待!

 ◆中世武士の肖像
時代のうねりの中、時には知略をめぐらせ権力に加勢し、時には自らの血脈を信じて戦い抜いた中世武士団。全国に散らばる名族を毎号取り上げ、彼らの興亡の歴史をそのルーツや地域との関わりから描きだす新コーナー。ご期待ください。

◆BOOK STREET(編集者の眼)
担当編集者自らが刊行図書を紹介する注目のコーナー。著者にもっとも近い立場にいる担当者ならではの、ツボをおさえた読みどころの指摘は、きっと読者の皆さんの参考になるはずです。

 この他にも、新刊の著者や文化人による、書き下ろしエッセイを、多数掲載しております。

 

最新号の目次

 

ミュージアム・コレクション
 肩衝茶入 銘勢高(大名物) (兵庫県西宮市 頴川美術館) 
本能寺の炎を潜り抜けて
 西原 明子 (頴川美術館学芸員)

 

百話百言 
新聞の葬式
髙橋 昌明 (日本中世史)

 

 <特集>
美術史の魅力と愉しみ
~『天皇の美術史』刊行記念鼎談~


髙岸 輝
(東京大学大学院人文社会系研究科准教授)

  五十嵐 公一
 
(大阪芸術大学教授)

橋本 麻里
 (永青文庫副館長)



風景を切り取った男
早島 大祐 (日本中世史)

 

真田氏の画像史料をあるく
中澤 克昭 (日本中世史)

   

〈文化財〉取材日記
  関東を制した機構と外交
~調査が進む小田原城遺跡~
丸山 孝 (神奈川新聞社編集委員)

 

「古代の東国」刊行に寄せて
東国の巨大前方後円墳はなぜ造られたのか
若狭 徹  (考古学)

 

江戸東京今昔めぐり
第3回 江戸城3
モリナガ・ヨウ (イラストレーター)

 

中世武士の肖像
南部氏
-中世を漕ぎぬいた奥州武士の意地-
関 幸彦 (日本中世史)

 

歴史のヒーロー・ヒロイン
太宰 治(ダザイ オサム)
 本の恐ろしさ、教わった作家
石橋 毅史 (著述業)

  

たたかう三成と筆まめな清正
中野 等 (日本中近世史)

 

吉宗の女性史
-残らなかった記録と残った記録-
藤本 清二郎 (日本近世史)

 

 

   

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PR誌本郷第126号収録
『日本近代の歴史』刊行記念対談

世界史の中の近代日本
―内政と外交のはざま―

 
源川真希 みながわ まさき
1961年、愛知県生まれ。東京都立大学大学院人文科学研究科博士課程単位取得
現在、首都大学東京都市教養学部教授
主要著書=『近衛新体制の思想と政治』、
『東京市政』など多数
大日方純夫 おびなた すみお
1950年、長野県生まれ。早稲田大学大学院文学研究科博士課程修了
現在、早稲田大学文学学術院教授
主要著書=『近代日本の警察と地域社会』、『維新政府の密偵たち』など多数

 

本シリーズの特色

――本日は、9月より刊行が開始されます新シリーズ『日本近代の歴史』の企画編集委員である大日方純夫・源川真希両先生にお越しいただきました。本シリーズの特色や見どころについてお話しいただきたいと思います。

 源川 本書の特徴はと言うと、近代日本の85年ほど、明治維新から1950年代ぐらいまでの時代を6つに分け、国際環境を留意しながら政治史を中心に描いたということです。
 大日方 そうですね。やはり時代区分ですね。

 源川 国際環境と、それに対応する内政のあり方について総合的に把握するという考えのもとで執筆の打ち合わせをしました。6つの時代の分け方は、第1巻が「王政復古」から明治6年政変、第2巻は岩倉使節団を起点として日清戦争まで、第3巻で日清戦後経営から明治の終焉、アジアの情勢としては辛亥革命、第4巻は大正政変から、そして大正末期の第2次加藤高明内閣ぐらいですね。第5巻では憲政常道の定着ということで、第2次加藤内閣が若槻内閣に移行する時期から、日中戦争前の林銑十郎内閣までの時期を扱ったということです。
 そして第6巻では日中戦争の前夜から戦後、サンフランシスコ講和から1955年体制の形成までを扱いました。1955年体制の形成にふれたのは、戦前の政党政治が崩壊して、戦後、総力戦体制になりますが、政党が復活していくさまも描きたかったからです。
 このように6つの時期に分けてそれぞれ執筆をお願いしたわけです。通史を書くというのは非常に難しい。1巻分で400字×350枚程度の規模で概括的な叙述をして、いろいろな研究に目配りをしながら研究状況を説明しなければいけない。やってみて分かったのは、研究状況の把握とか大きな歴史像の理解が難しくなっていて、近現代史研究者でも政治、外交、経済、社会など、個別の研究状況を概括していくのはすごく大変だということです。

 大日方 政治史の基本的な流れを押さえながら記述するというのが一つのねらいです。その場合、通史というのは何なのかが、難しい問題です。単純な誤解があって、年表と同じじゃないかというふうに勘違いする人もいます。しかし、時間軸で並べていけば歴史の流れが見えてくるというのではなく、時代の構造を捉えながら展開させていかなければならない。ですから今回で言うと、巻別けをどこでどう切っていくのか、巻の中でどう編成するのかというあたりが一番手腕が問われるところだと思います。
 やはりそれぞれの巻とも時代の捉え方という点では、非常に特徴的で、ある種、個性的です。各巻、時代像が非常に鮮明になるような、仕上がりになっているという気がします。
 しかし、他方で、今回のシリーズは、個人の研究そのままのオリジナルな作品というわけではなく、基本的事実を踏まえながら、かつ先行研究をいろいろ組み込んで時代像を描こうとしているところが重要です。ですから、全体としても非常に安定的に展開できているので、安心して読んでいただけると思います。

――特徴でいきますと、1、2、3巻の区分というのは比較的スタンダードだと思います。ただ後半の4巻と5巻の分け目を工夫して、1925年と36年で分けたねらいについて聞かせてください。

 源川 これは執筆者の方の顔もチラチラと思い浮かべながらというのもありましたけれども、やっぱり護憲三派内閣ができて、憲政常道が定着していく過程というのは一つの区切りにはなるだろうと思いました。
 描き方としては、第4巻の櫻井さんに大正時代というくくりでまとめていただき、その終点としての護憲三派内閣から普通選挙、治安維持法という位置づけになると思います。
 河島さんには憲政常道の時代から、37年の日中戦争直前ぐらいまでを、1つのまとまりとして描いていただけたと思います。
政党政治の展開と崩壊から日中戦争開始前の時代的な総括が、第5巻ではできたのではないかと思います。

 大日方 それは基本的には政党政治という話と、国際的には協調主義がメインになっている時期としてイメージされてくるということですね。

 源川 そうですね。

 大日方 それが破たんしていく過程としてですね。

 源川 そうです。

 大日方 ですから15年戦争と一括しないで、振り分けてみたということですね。

 源川 微妙なのは、これまでの15年戦争論や、あとで述べますがデモクラシーからファシズムへという枠組を意識しています。河島さんの巻のタイトルは『戦争とファシズムの時代へ』です。とはいえ、この時代の複雑な様相を描いてもらえたのではないかと思います。

世界史との関わり

 源川 次に世界史との関係についてふれます。世界史の展開と、アジア情勢の中での日本の位置を踏まえながら内政を書いていくということです。これは各巻それぞれで意識されていると思います。奥田さんの第1巻『維新と開化』については、『日本近世の歴史 第6巻 明治維新』(小社刊)と重なる時代を扱っています。

 大日方 そうですね。政局史という意味では、重なっています。

 源川 私のように近代の後ろの方を勉強している者は近代国家建設について、立憲制の形成、明治憲法の制定ぐらいまでざっと見てしまうんです。しかし第一巻からは明治6年ぐらいまでの時期に、いかに近代国家をつくるさまざまな変革といったものが進んでいるのかということがわかります。ものすごく苦しみながら国制が変わっていく。

 大日方 そうですね。痛みを伴います。

 源川 第1巻は幕藩体制から新しいものに変えようとしていく様子が生き生きと描かれていたと思います。
 そして大日方さんの第2巻で、あらためて近世における国際関係の「四つの口」の概括と、それが近代にどうなっていくのかという展開になっています。この辺はいかがですか。

 大日方 世界史のなかでという場合、それこそが日本近代史の特徴だというふうに思うんです。「鎖国」と言えるかどうかは別としても、少なくとも前近代は東アジアの中で世界が形成されている。しかし、基本的に「開国」後の近代は世界史抜きには語れない時代に入ってくるので、それを入れない近代史はあり得ないと思います。その点では世界史とのかかわりが必然的なものだということです。
それから、とくに高校生、大学生の読者をイメージした場合、日本史、東洋史、西洋史という区分ではまずいと思います。アジア史と西洋史、あるいは日本史と西洋史を統合していかなければならない。そこをうまく書き分けることが非常に重要な課題です。
 その内容、評価は別として、文部科学省
は2020年度以後に実施される学習指導要領で、高校に「歴史総合」という新しい必修科目を置こうとしています。歴史というものをそもそも単純に世界史と日本史には区分はできない、というところがやはり大きなポイントになってくると思います。

―― 「歴史総合」というのは日本史と世界史の総合ですか。

 大日方 そうです。日本史と世界史とに区分しないで、まず高校に入ったらそれを基礎としてやる。中央教育審議会の案では、その上に日本史に関する探究科目と世界史に関する探究科目という2つの選択科目を置くことになっています。その点では、近現代重視、かつ世界史、特に東アジアを視野に入れないと語れないという、そういう流れができてくると思います。日本学術会議も2014年にそういう方向で、「歴史基礎」という形で提案したものですから、日本史と世界史の統合ということが大きな流れになっているのだと思います。
 世界史という場合、さっきも触れたのですが、基本的に日本の独自な位置として、西洋列強とどう関係するのかということと、アジアの近隣とどう関係するのかということの2つが大きなポイントになるわけです。「脱亜入欧」ということが言われたり、アジアに対する侵略という問題が言われたりしますが、それを各時期ごとに、押さえながら議論を展開していくことが非常に重要だと思います。
 その点で、第2巻から後の時期は、そういう両にらみの展開が重要な課題になると思います。

―― 最近、日露戦争までの日本の外交戦術を評価すべきだという外国の研究者がいます。近代史の中では、すでに日清戦争の時点から植民地戦争の側面があるわけです。評価するのが難しいと思いますが、学界としてはどうですか。

 大日方 かなり論争的テーマになるのは、日清戦争までのプロセスをどう見るのかということです。これについては、日本の近代史研究者の中でも対立的な見解があります。つまり必然的に日清戦争に至り、日本は中国を侵略し、日露戦争から15年戦争に至るという、こういう流れで、ある種一直線に見る見方と、他方で、いや、それは政治過程の展開の中から出てきて、それが日清戦争で決定付けられたのだという議論があります。私は今回、後者の立場に立って基本的には書いていますが、「結果、うまくいった」という言い方は、大国化したという立場に立つからそう言えるのです。しかし裏を返せば、今回は特に第3巻あたりで「帝国」という問題が入ってくるので、そこのところが大きな分かれ目だと思います。つまり主権回復という話だけではなくて、それがアジアに対する進出・侵略の展開と裏腹の関係になる。ここのところを問わなければならないと思います。
 こうしたことの結果として、戦争と侵略、植民地化ということが、本格的に展開していくのです。それを見ないと、朝鮮支配とか、あるいはその後の中国侵略というのは見えてこないと思います。
 近年は国際秩序とか外交史というのはかなり蓄積がされてきていますが、そういう外交史や国際関係史の蓄積を、政治史とどうリンクさせていくのかというのが大きなテーマになります。

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 政治史研究の論点

 源川 このシリーズは政治史を軸として近代を描いていくという共通した書き方があります。政治史研究というのは方法が確立していて、ある意味では史料があれば新しいことが書ける。とりわけ個々の政局を明らかにしていく研究は、いろいろな形で発表されているわけです。

――そうですね。

 源川 そうした研究の成果を蓄積していくことは重要なのですが、ではその時代を全体としてどう考えるか、どう見ていくかということを考える必要があると思います。論文を書くさいには、その時代の支配的な政治史の枠組みに寄り添って書いていると思うんですけど、あまりふだんはそういうことを意識できないような状況があるのではないかと思うんです。しかし政治史をどう見るかという枠組みについて考えることは大事だと思います。政局をめぐる個々の事実についてはどんどん明らかになってきますけど、全体として政治史をどう見るかという枠組みはすごくゆっくり変わっています。
 その点で、政治史、とりわけ近代の前半ということでいくつか論点をあげたい。1つは自由民権から帝国憲法発布、そして初期議会ぐらいまでの政治史は、これは大日方さんの専門で、30年前、つまり民権運動の研究がすごく隆盛を見せていたころと、現在の民権研究というのがどういうふうに変わってきたのかということについて、お考えをお聞きできればと思います。

 大日方 これは結構、頭の痛い問題です(笑)。自由民権運動と明治国家の対抗関係を描いてきたのが、1980年代くらいまで、「民権100年」記念のあたりまでの研究です。戦後歴史学の展開の中では、自由民権運動の時期というのは、明治政府は抑圧的で、それに対して民権運動がたたかったという構造でとらえてきたわけです。それは現在も、民権運動研究の流れとしては引き継がれているのですが、他方で1980年代あたりから芽生え、90年代に専らになったのが「国民国家」という観点でこの時期を捉えようとする議論です。民権運動も明治政府側も基本的に「国民国家」づくりという点で共通しており、その結果、「国民」は体制化していくといったのです。ある言い方からすると、自由民権運動があったからこそ明治政府は安定的な基盤をつくることができ、それをベースに対外膨張へと展開できたのだという話になります。
 「国民国家」論には、「国家」を「国民」との関係から議論していくという特徴があります。今回はこれをもう1回考え直そうということで、「国民国家」という言葉はあえて使わず、「主権国家」という観点からとらえかえしてみようとしました。国民と国家という1国単位の枠組ではなく、世界に配置されている国家・地域は、国際法的なレベルで議論した場合には、同じ国家・地域ではなくて重層的な、3重の構造になっている。そうすると少なくとも主権とは何なのかが問題となります。対外的主権の問題と対内的主権の問題をどう見るのかということを議論しないと、国家は国家として存在できないのです。
 それから単純に国民と言っていいのかどうかという問題もあります。即明治前期から国民国家だというのはたぶん誤りですし、天皇制の問題もあります。国民は果たして国民たり得たのかという議論が残ります。

――むつかしい問題ですね。

 大日方 そこで、もう1回そこを仕切り直ししようと考えたのです。自由民権運動の時期の政治史的な再構築という点で、外からすれば外交、対外関係、中では主権という問題がどう議論されていくのか。条約改正等をめぐる問題とか、対欧米関係として展開していく過程と、それから主権回復のプロセスが東アジアにおける主権はく奪の過程と連動するという問題とを統一的に捉えていったときに、「主権国家」ないし「国民国家」には2重性があるわけです。ヨーロッパもそうで、自国で主権を確立するけれども他者を抑圧するという仕組みとなります。イギリスやフランスは自由の祖国ですが、逆に言えば帝国主義の祖国でもあるという構造になるので、この2面性を見る必要があります。その意味で、日本が特殊ではない。こうした事態を単純化しないで見ていったほうがいいというのが1つです。
 他方で、国内的に言うと、主権を誰が握るのか。天皇ないし官僚、藩閥勢力と、政党ないし国民という関係の中で、主権の担い手をめぐる対抗があることを抜きにしてしまうと、基本的に国家をめぐる議論たり得なくなるわけです。国民化されただけでは国家たり得ないので、そこを明らかにしたい。
 源川さんは第6巻のプロローグで、通史の書き方には時代が反映しているとふれています。ちょうど去年の5月ぐらいにこの巻を書いていて、その時期からあらためて考えてみると、現在、われわれがどういう時代状況の中でこうした問題を考えているのかということを問いかける必要があると思います。現代における主権の問題を、国内的な主権の問題を含めながら、あらためて近代を見直してみたいと考えています。そういう問いかけをしてみたいという思いがあって、いったん執筆した後で原稿にいろいろ手を入れてきました。
 その点で今、政治を身近なものにする必要がある。一時期ずっと政治史が嫌われて、社会史とか文化史のほうに関心が流れました。しかし、そこであらためて政治史とは何なのかということでこれを再構築し、政治を身近なものに感じることができるような、そういう試みが必要だと考えています。
 第1巻の奥田さんがお書きになったところは、まさに問いかけとして、近世の閉鎖的な政治システムがどう変わっていくのかという、国家意思の決定のされ方を問題にしているわけです。ですから近世的な意思決定システムという、非常に閉鎖的な、将軍、譜代・門閥の政治のあり方がいかに変えられていくのかという点で、近代国家、近代日本の政治運営のシステムがどう展開していくのかという、初発の動向が解明されています。
 第1巻ではその産みの苦しみというか、当局者側の諸構想が出てきて、さまざまなことが展開していく。それが第2巻のところで、実際に当局側の有司専制体制と、自由民権運動が掲げる議会制、立憲制というものが議論されながら、双方がかなりからまって展開をしていく。そして第3巻の時期に実際の運営システムの中でこれがどう機能していくのかという流れになります。基本的には政治権力と国民の同意調達システムがどう機能していくのかという点での政党や議会制、あるいは内閣ということをもう1回整理し直す作業になるのではないかという気がします。つまり立憲主義および政治運営システムの再検討というようなことになるのかな思います。

 源川 そういう意味で言うと、明治中後期から大正期の政治史も非常に研究の蓄積が多くなっています。飯塚さんと櫻井さんはその分野の政治史の研究をリードされている方ですが、とりわけ中央の政局という点だけではなくて地方政治に踏み込んで、政治構造というのを描く。このお2人は政局や外交だけではなくて、政治の基底のようなものを研究されている方なので、そういう点での研究成果というのが非常に生きている。その意味で、政治を表面だけではなくて構造的に捉えていくという、われわれが考えているこのシリーズのコンセプトにとっても、非常に大きな意味があったのではないかと思っています。

 大日方 構造的に政治を捉えた場合、やはり中央政治の政局史ではなくて、地方、地域の分野が見えないと、描けないですね。

 源川 櫻井さんは東京の研究をされて、外交もできるし、それを踏まえた上で政治史を書く。その点でこれまでの研究の成果の部分を生かしていただいているような形です。
 飯塚さんは、議会制の発足から対外硬運動、対外硬派の運動の地域的な基盤について実証的に研究されています。そういう外に向かっていくようなナショナリズムの力を地方から考えるという視点によって、外交や中央政治を書く場合も、非常に奥の深い議論をしていただけたのではないかと思います。

 大日方 これはおもしろい。櫻井さんは東京で、飯塚さんは京都でと、足場はそれぞれ東西に置きながらということになる。都市民衆や商工業者の利害が政治にどのように反映されているかということを対象にしている。かつ政治、政党等についてそれぞれ研究されているから、そういう点では非常に構造的ですね。

 源川 戻りますけど、外交史、戦争史については、さきほどふれた世界史のなかの日本近代という視点が重要ですが、戦争史の最近の研究成果をふまえて書いていただいているということが、このシリーズの非常に大きなメリットだと思っています。日清戦争、あるいは台湾征服戦争、日露戦争、そして植民地支配ですよね。それぞれ専門性を生かして最近の成果とご自分の研究の内容をうまく反映させて書いている。ところで、外交史、戦争史、特に日清戦争からその後、戦争史を通史的に叙述するというのは教科書を書かれるときに非常に苦労されると思うのですが、そのあたり、大日方さんに教科書執筆の苦労を聞かせていただけますか。

 大日方 結局、戦局、戦闘の歴史になってしまうと、これは悪く言えばオタク的な形になって、ある種、勝ったか負けたかとか、どうやってやったかという話になってしまう。ですから教科書ではあまりそういうことはやらないのです。基本的に、なぜ戦争を起こしたのか、誰が起こしたかというような戦争の要因とか、背景とか、特に近年ですと戦争指導者だけではなくて民衆とか相手側の視点などを組み込みながら見ようということです。ですから、その点で日清戦争などの最近の研究では、かなり社会史的な視点を含めて展開されていますし、日露戦争も民衆視点からどう見るのかということで、単純に戦場における戦闘ではない形で展開されているというのが大きな特徴だと思います。
 その結果、教科書でも戦争の始めと、戦争が終わった後どうなるかにかなりウェイトが置かれます。戦争中については簡単に戦局を押さえながら、それに対して兵士とか住民がどう関与していったのかということが比較的記述の中心になります。今回のシリーズもそういう形で対応できるのかなという気がします。
 ただ、ここでも厄介なのは、日本史というふうに一応区切るとすると、相手側の記述をどこまで入れるのかということが結構難しい問題になります。これは私が担当したところで言っても、いろいろな軍事衝突事件があって、それをめぐって日本史ないしは日本近代史として描く部分と、朝鮮とか中国の動向をどう連動させていくかというのは、分量や叙述方法の問題としては非常に悩ましいところです。でもそれを入れないと、実際は戦争の構図が見えてこないとも言えます。この点で近年の中国史や朝鮮史の成果を参酌して入れていくことは不可欠だと思います。

 源川 辛亥革命後の日本の中国に対するさまざまな外交的な工作などについては櫻井さんの専門領域です。ですから大正期の日中関係についても、これまでの通史以上に描いていただいているような気がします。

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  昭和をどう位置づけるか

 源川 その流れで昭和期をどういうふうに見ていくかということになります。「大正デモクラシーからファシズムへ」というのはこれまで使われてきた枠組みです。最近いろいろな通史を読む機会がありますけれども、あまり強く意識されてないんですね。でもまだ教科書ではかなり使われています。だから歴史を認識する枠組みとしてはまだまだ通説的な位置付けがあると思います。
 ただ、この第4巻~6巻に関わるのですが、表面上はあまりそれを意識していないようです。大正デモクラシーからファシズムへという直線的な書き方をしていないと思います。

 大日方 そうですね。

 源川 そういう書き方はしていませんけど、例えば第四巻の櫻井さんもやはり日比谷焼打事件から第1次護憲運動の頃の日本の政治は、一方では立憲主義を求めながらも対外強硬的であったが、第1次世界大戦後には協調的な傾向が出てくるという変化を指摘しています。
 そういう大正時代のデモクラシーの性格については、第4巻でも議論されています。そしてその後の第5巻、第6巻にかけては明確に大正デモクラシーからファシズムへとは言ってないのですけど、実はそれなりに意識しています。それは1920年代後半から40年代をどう見るかということに関わります。
 河島さんは冒頭のところで、第5巻の時代を「現代国家化」の時期だと捉えています。現代国家というのは、言い換えると福祉国家とか、欧米的なケインズ主義的国家です。議会制民主主義があって社会政策を行う。古典的自由主義ではなくて社会に介入する国家をこの場合に、現代国家と言います。あるいは労働者の保護を政策化するような、20世紀型の国家というのがつくられていく。このように一般的には理解されている。
 第5巻では、日本にもある程度そうした政策構想があって、おそらく浜口内閣はそういう意味での1つの担い手として位置づけられているのかなと思います。浜口内閣の時期には労働政策とか社会政策が提起され、あるいは女性の公民権も衆議院だけは通りますので、女性の政治参加なども含めて現代国家化を進めようとした過程として、おそらく理解していると思います。それはある意味では大正デモクラシーの流れの中に位置付くわけです。
 なおかつ私の担当した第六巻のほうでも、その問題意識をある程度引き継いでいます。ですから第5巻は『戦争とファシズムの時代へ』となっていますけれども、歴史観としては軍部が出てきて着々とファッショ化を進めていくという歴史観ではないのです。国家のあり方については現代国家化が目指されていくわけですけど、しかし、そのいっぽう軍部が中国侵略を始めていく。それに対して、現代国家化をしつつも、軍部に抑えが利かない。そういう点での弱点・限界性みたいなものが指摘できるのかなと。
 それから理解するのがむつかしいのは軍部の中にも社会政策を重視するグループがいること。陸軍パンフレットなどというのは、いわゆる広義国防を掲げているので、それを求める軍部と、さっき言った現代国家化を目指すような構想というのが、ある意味ではリンクしてしまうようなところもあります。おそらくそれが1930年代の日本の政治史を考える上では非常に重要な点で、これまでの研究で議論されてきました。それは私も強調しているところです。だから大正デモクラシーからファシズムへと明確に言ってないんですけど、その移り変わりのロジックをかなり強く意識して書いたつもりです。
 言い方としては、福祉国家化のような動き、つまり現代国家化を目指していく政策構想があったのですが、対外侵略を行う軍部が一部、国防のための社会政策なるものを主張しています。それと現代国家化の動きがある部分くっついてしまうようなところが、1930年代の政治史の特徴なのだと捉えています。
 この辺についてはおそらく河島さんも私もかなり共通した問題意識を持っています。

―― 一般に現代政治を語る上で、日本の政治は官僚政治だというような言い方もされますが、いまおっしゃった現代化というところで、主導権を握っているのは政治家なのか、官僚なのかどう考えてらっしゃいますか?

 源川 そこはなかなか難しくて、河島さんの巻で述べられているように、確かにロンドン海軍軍縮条約の締結の時の浜口のリーダーシップというのは、枢密院も押さえて調印するという点で意味があったと思うんです。その後、撃たれてしまうわけですけど。官僚のほうは、その政党政治の時期にかなり劣勢の位置にあったと言われていますが、彼らは彼らでいろいろな政策構想を持っています。官僚のほうも意外に、政党政治はそれなりに必要だと思っているんです。無産政党のある程度の進出と政党政治というのが日本にあってもいいのではないかと考える人々が一定数いて、政党政治を弾圧するようなイメージでは語れない。
 そして官僚の役割、特に新官僚と言われる人々も、1933年以降変わっていく。政党にかなり抑圧的になっていきます。そのような官僚の姿が第5巻で示されているのかなと思います。

  総力戦体制とは何か

―― 最後ですが、第6巻が対象とする総力戦体制についてふれていきましょう。
 大日方 要するに福祉国家、つまり国家的な政策として介入していくという話ですね。自由主義経済ではなく、ある種、懸命な管理をしないとまずいということです。それが後の総力戦体制や戦後にどういう位置になっていくのでしょうか。河島さんの提起された「現代国家化」は、そこのところをいわば戦後のある種のモデル、ある種の類似性として捉えようということでしょうか。その関係はどんなふうになるのですか。

 源川 そこは難しくて。当たり前の話なんですけど、1930年代前半までを1つにまとめて捉えたとすると、総力戦体制につながる部分も当然あります。それはどういうことかというと、さっき言った社会政策と広義国防の連動というのはまさに38年以降出てくる。国家総動員法とか、厚生省の設置や、国民健康保険をつくろうという構想があるんですけど、おそらく社会政策についていえば、30年代前半の現代国家の文脈で捉えることができます。
 それが戦争の論理の中に引っ張られていく側面が必ずある。だから総力戦体制論の枠組みというのは、総力戦になって変わったということを切り取って見るべきではないと僕は思うんです。つまり総力戦の時代だけではなく、前とのつながりというのを十分認識しなければいけないというのが僕の考え方です。
 歴史なので当たり前ですけど、30年代前半での動きというのを十分踏まえた上で、それがどういうふうに総力戦に持っていかれるのかという発想のほうが僕はいいのではないかと思う。ただ、総力戦体制に引っ張られて、ゼロか100かではなくて、やっぱり総力戦に行かないような現代化の構想というのはあったと思います。基本的には、さっき言った軍部の広義国防の論理によって戦争に持っていかれる。ただ、もしかしたら持っていかれないで済んだかもしれないという発想も必要なのかなと思っています。それは、おそらく戦争が終わった後に生かされてくる。
 だから占領軍が行おうとした政策というのは、もちろん個別的には総力戦体制期に原型が作られていたものもありますけど、構想としてはその前からあって、戦争とは無関係に存在している。いわば30年代前半の現代国家的な政策、実現しないまま残っていたものを、占領軍が一気に進めたという側面もあるのではないかと思います。その意味では30年代前半の構想は総力戦体制に連続する部分と、それ以後にGHQの占領政策の中で新たな形で展開していくものがあったのではないかということが、僕が最後に言いたかったことです。

 大日方 思いつき的に言うと、櫻井さんが扱っている時期の政治のあり方とか、社会の編成のされ方とか、現代的な社会状況みたいなものが、ある種、総力戦の戦時体制をかいくぐる中で、戦後の基盤をつくっていくような側面もあると。

 源川 そうですね。松尾尊兊さんの問題意識も大正デモクラシーの成果というのが戦後の民主主義につながっていくというものです。

 大日方 そうそう、ある意味古典的な。

 源川 それは僕も基本的に間違いではないというふうに思っていて、河島さんもそう考えていると思います。
 ただ、僕たちが強調しているのは、おそらく大正デモクラシーがつぶれた後の数年間というのは非常に大事で、つまり1930年ぐらいから37年の日中戦争の始まる頃までの時期というのは、おそらく従来の大正デモクラシー論では大正デモクラシーとは言われてないと思うんです。だからその部分をどう位置付け直すのかというのが、今回、書きたかった1つの新しい点なのかなと思っています。

 大日方 でもいずれにせよ、総力戦体制だと能動性を発揮しないと展開できないから、ある種、政治参加というのは相応に疑似的には保障します。よく言われる市川房枝など、女性の政治参加とか、戦時中の女性の労働力動員に関する論争もある。客観的にはそういう状況の中で進んだ社会的進出が、状況が転換する中で基盤になるということは、十分あり得ると思うんです。

 源川 そこはかなり連続した部分もあると思います。その意味でも、総力戦体制論というのは総力戦によってという言い方になりますよね。だから戦争が起動要因になるということですけど、むしろ戦争がなければもうちょっと違う形で、もっと早く実現したかもしれない。

 大日方 単純化すると、櫻井さん、河島さんの流れの延長上に展開してくる。
 源川 それがうまくいけば、総力戦を使わずにある程度、構想が実現した可能性はないわけではないと言えるでしょう。

 大日方 ある種、逆接的というか(笑)。

 源川 そういうふうに考えてみたらどうであろうと。そう考えることで大正デモクラシー論の問題意識を受け継ぎますけれども、占領政策の意義を正当に評価することになると思います。もちろん占領政策は民主化に役立ったんですけど、じゃあその前の日本の社会の持っていたポテンシャルというのは何か。それをもうちょっと見ていく必要があるだろうと思っています。

 大日方 つまり外在的な民主化、ないしは政治構造が追認されたわけではなくて、そうした基盤とか前提があってということですね。

 源川 まあ、そうです。そこが大正デモクラシー論とそんなに議論としては変わらない。

 大日方 松尾さんと言い方は違うけれど、でもある種受け継いでいる部分はあると思います。単純な総力戦体制論とはまた違う部分が出てくることになるのではないでしょうか。

 源川 そうですね。

――本日は、かなり内容に深く踏み込んだお話しを聞けたと思います。ありがとうございました。

 (2016年7月29日)

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